【対談】SIP「スマート物流サービス」 研究開発成果と今後の展望
- ▼プログラムディレクター
田中 従雅 氏
▼フィジカルインターネットセンター
代表理事
荒木 勉 氏
高い目標を持ち続け、1つ1つ芽を育てる
内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト「SIP」。
物流プロジェクト「スマート物流サービス」が5年間の研究を閉幕した。プログラムディレクター・田中従雅氏、継承組織である(一社)フィジカルインターネットセンターの代表理事・荒木勉氏が対談でご登場、これからのスマート物流を示唆した。
――研究開発5年間を振り返って
田中 物流クライシスからスタートしたが、コロナ禍で、改めて物流がキーワードとなったことが最も印象に残った。物流は水道、電気、ガス、通信と同様に社会インフラの1つであり、社会の中で不可欠なもの。そのためにも持続可能なものにしていかなければいけないと、使命感がより大きなものになった。
――研究開発による成果の活用について
田中 1つには、物流情報標準ガイドラインの活用が非常に重要であると考えている。サプライチェーンにしても、企業と企業がつなぎ合って形成される。そこに物流も物理的につながる。
そうした世界の中で、何をみんなで良くしていこうかと考えた時、キーになるのが情報。ところが、結びつこうとした際に標準化されていないと言葉が通じない。同じ日本語であっても、言葉や意味するところが同じでなければならない。そこに物流情報標準ガイドラインが必要になる。
ガイドラインは、サプライチェーンの中で物流機能として使うだけでなく、物流をお使いの皆さんと情報を通じて意思疎通していくことが大切であり、サプライチェーン全体で使うことによって価値がさらに高まる。
一方、情報が競争の源泉と定義する企業も多い。このため、企業同士が情報を活用して共創世界をつくるにはしばらく時間を要する。そこで、本プログラムで開発したアクセスコントロールを可能にする技術、データを改ざんできなくする技術は大いに価値があると考えている。
――持続可能な物流実現に向けて
田中 物流は、はじめに申し上げたように持続可能なものにしていかなければいけないとSIPの活動を通して強く感じていた。その観点から、フィジカルインターネットという概念が目指す方向性に最も近い。このため、フィジカルインターネットにバトンタッチして、この考え方が途切れないようにしたいという思いがある。
――フィジカルインターネットの意味するもの
荒木 「究極のオープンな共同物流」と定義している。オープンとは、誰でも、どこの荷物も扱う。それを究極つまり徹底して行う。加工食品と日雑品というだけでなく、消費財や生産財も一緒に混載し、トラックを有効に使う。
それを可能にするため、標準の通い箱、標準のパレットを用意してみんなで使い回し、使った分だけ費用を払う。預かった荷物はリレーしながら、車両も資材もスピーディに回転させればムダがなくなる。その際、いただいた料金はみんなで分配しなければいけないが、ICタグにすべて記憶させて案分すれば可能になる。
こういった話を2019年にしていて、その年の2月に開催した上智大学でのシンポジウムで初めてフィジカルインターネットの話が出て、「日本の物流を変えるのはこれだ」ということになった。
――フィジカルインターネットセンター設立の経緯
荒木 2019年、上智大学名誉教授であった私が主宰する研究会にしたいと考え、野村総合研究所を事務局に大手物流企業、大手物流システムメーカーなどに参加していただいた。フィジカルインターネットを知ってもらうため、翌2020年にシンポジウムを開催したところ、多くの方から注目された。コロナもあって物流が注目され、物流に対する意識が変わってきている。この時こそ物流を変えていく必要があり、増え続けるネット通販に応えるためにも、フィジカルインターネットは本腰を入れなければいけない。
ドライバー不足が深刻度を増す中、共同物流によって積載率を上げなければいけないと、いろいろな業界で取り組みが進められている。その際、みんなが標準のものを入れて行えば効率が良くなる。協議会の開催といっているが、そういった相談をする機会をつくるのがフィジカルインターネットセンターの役割。できるだけ業種をまたいで進めていきたいし、中立的な組織にするため、2022年6月23日に一般社団法人化した。
――スマート物流サービスの横展開、フィジカルインターネットセンターに対する期待
田中 大きなものをつくってそこに参画するのではなく、小さなものをつくり、小さなもの同士がつながって大きくなるという展開が望ましい。SIP研究開発5年間で出来上がったモデルが広がっていくこともあるし、モデルを1つの事例として、異なる業界で同様なものができることも期待している。
そのためにも、継承組織であるフィジカルインタネットセンターさんに取り組みや成功事例を発信していただき、皆さんがそれに向かっていただきたいと思うし、SDGsという向かざるを得ない1つの大きな流れがある。SDGsを含め、継承組織は高い視座の中にあるべきだと思うし、ノーススター(北極星)に届く変わらない目標を持ち続ける意味でも、フィジカルインターネットセンターさんがふさわしいと思っている。
フィジカルインターネットセンターさんがふさわしいと思っている。そこに、物流情報標準ガイドラインも併せて推奨していただきたい。